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5.3 大陸起源石英の沈積流量と中央粒径値の結果
分離後の大陸起源の風送塵石英の沈積流量の時系列変動は、2.4〜101mg cm-1 kyrlの変動幅で、その平均は58mg cm-1 kyr-1であった(Fig.3f)。変動傾向は約1〜3万年前、6〜8万年前で増加を示した。また風送度石英の中央粒径値の時系列変動は、9.0〜8.5φの変動幅で、その平均は8.7φであった(Fig.3g)。しかしながら、氷期−間氷期サイクルに伴う変動は見られない。
5.4 気候変動と風送環境
風送塵起源の石英の沈積流量の時系列変動は、氷期に増加、間氷期に減少する傾向がみられた。最終間氷期である有孔虫酸素同位体比ステージ5の約40〜50mg cm-2kyr−1に対して、氷期ではその約1.5〜2.5倍の沈積流量を示した。この結果は、Hovanet al.(1992)(1)の非生物起源物質の沈積流量と似た傾向を示す。しかし彼らが正確に火山灰の影響を除去していないのに対して、今回の結果は、精度よく風送塵の沈積流量をとらえられていると考えられる。また一方彼らは、同海洋底コアの非生物起源の沈積流量変動と中国内陸部のレス堆積物の帯磁率変動との間に正の相関も見出している。このレス堆積物の帯磁率変動は、中国内陸における夏季モンスーンの強さ指標であるとされている(An, 1991(14))。中国内陸における降水は地形的に夏季モンスーンに集中するので、夏季モンスーンが不活発時には、内陸で夏季の降水が減少し、年間を通じて乾燥化する。この大陸の乾燥化は、風送慶の発生量を促す環境条件にある。また風送塵の発生を促す別のシステムとして冬季モンスーンの強化が考えられる。Xiao(1995)(15)は、同じく中国のレス堆積物の石英の粒径変動から、氷期に冬季モンスーンが強化されていたことを示した。今回の北太平洋ヘス海膨のコア解析結果からの風送塵起源の石英の沈積流量が氷期での増加は、上記に示した氷期における中国内陸部での夏季モンスーン弱化と、冬季モンスーンの強化の影響を受けているものと考えられる。さらに今回氷期のステージ4で石英の沈積流量が最も多く、ステージ2の約1.5倍に達している。この傾向は、Hovan(1992)の非生物起源物質の沈積流量の結果にも見られた。このことは、本研究海域へ風送塵を運ぶシステムが氷期のステージ4に最適であったことが示唆され、この時期に中国大陸がもっとも乾燥していたこと、また偏西風が風送塵を運ぶのに最も適した緯度に形成されていたが推測される。
風送塵石英の中央粒径値の時系列変動は、1.9〜2.8μmの狭い変動幅に収まり、氷期-間氷期間で有意義な傾向が見られなかった。これは、氷期-間氷期を通して、風送塵を運ぶ風の強さがあまり変化しなかったこと示唆する。しかし今回の研究海域が風送塵の発生源である中国内陸部から遠すぎ、同海域に運ばれる風送塵の粒径が風の強さを明瞭に反映出来ていないことも考えられる。
謝辞: 本研究は、工業技術院特別研究「海洋環境変遷の研究」の成果の一部である。本研究に使用した試料は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、(株)関西総合環境センターに委託して実施している「海洋中の炭素循環メカニズムの調査研究」の調査航海(白嶺丸NK93−1次航海)により得られ、同航海の船員及び乗船研究者に感謝します。また本研究を推進するにあたり酸素同位体のデータの供給に関して琉球犬学氏家宏教授にお世話になった。
参考文献
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